那覇地方裁判所コザ支部 昭和45年(ワ)50号 判決 1972年8月01日
原告
古謝為正
被告
知花正春
主文
被告は原告古謝為正に対し金九二三、六三七円六〇銭、原告古謝キヨに対し一、九六七、八六〇円および右各金員に対する一九七〇年六月二〇日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、
「被告は、原告古謝為正に対し金一、〇三七、五八八円六五五銭(三、四〇一ドル九三セント)、原告古謝キヨ子に対し金一、九九八、三六〇円(六、五五二ドル)、および右各金員に対する一九七〇年五月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
「一 訴外古謝為一は、一九六七年九月一日午後五時三〇分頃、沖繩県中頭郡嘉手納村字嘉手納在比謝橋隣の琉球政府一号線道路から東へ通ずる米軍用道路を自転車に乗つて一号線へ向け進行中、米軍牧原第四〇〇部隊東方約一五〇メートルの地点において、反対方向から被告が運転して来た米軍所属GMCトラツク四一一九七八九一号車(以下被告車という。)に衝突されて頭部に受傷し、そのため同日午後八時一五分頃死亡した。
二 右事故は被告の過失によつて生じた。
すなわち、被告は前記道路を同郡美里村字知花の米軍弾薬集積所へ向け時速約二〇マイルで進行中右衝突現場附近に差しかかつたが、同場所は見通しの悪いカーブで、道路両側に生い茂つたギンネムのため道路の有効幅員が狭くなりかかつた下り坂でもあつたから、通行区分を守りつつ徐行すべきであつたのにこれを怠つて進行した過失により対抗コース内で自転車に乗つていた右為一を被告車の荷台前部角附近に衝突させた。
三 右為一の死亡により原告らは次のとおり損害を蒙つたから被告は賠償責任がある。
(一) 逸失利益一一、一〇四ドル(三、三八六、七二〇円)
亡為一は昭和二四年一月二三日生れの男子で米軍の雇傭員として沖繩知花弾薬所に勤務し、給料月額八六ドル六四セント、年間ボーナス二五九ドル九二セントを得ていたもので本件事故がなければ一八才から六〇才までの四二年間に亘り(昭和四四年厚生省発表の生命表による)、毎年一、二九九ドル六〇セントの平均賃金を得られた筈であり、その間の同人の生活費は四〇ドル以下とみられるから、年額四八〇ドルを控除し、更にホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、その間の逸失利益の現価は一一、一〇四ドルと算定される。
亡為一は原告らの長男であるから原告両名が右賠償請求権の二分の一宛を相続した。
(二) 葬式費用四九〇ドル一セント(一四九、四五三円五銭)
亡為一の父として原告為正が葬式費用として支出した金額である。
(三) 慰藉料各一、〇〇〇ドル(三〇五、〇〇〇円)
前記事情で長男為一を失つた原告両名の精神的打撃に対し右金額が相当である。
四 よつて被告は原告為正に対し、前記合計金額中、労災補償により給付を受けた三、六四〇ドル八セントを控除した残額三、四〇一ドル九三セント(一、〇三七、五八八円六五銭)、原告キヨ子に対し前記合計六、五五二ドル(一、九九八、三六〇円)および本件訴状送達の翌日から右各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、被告に本件衝突事故につき過失があつたことは否認する。その余を争うと述べ、
抗弁として次のとおり述べた。
「一 仮に被告に過失があつたとしても、被告は本件衝突事故現場のカーブに差しかかつた際、一〇〇メートル先まで聞える響きの強い警音器を二回吹鳴したから、亡為一は前方から対向して進行する車両のあることを認識し得た筈であり、自転車を運転する者としては、このような見通しのきかないカーブにおいては道路端に停車するか、又は徐行して衝突を未然に回避する義務があるのにこれを怠り徐行もせず漫然道路の中央寄りに進行してきた過失がある。
二 被告は本件事故後原告らに対し見舞金二〇〇ドルを支払い又原告キヨ子は米国陸軍省から葬祭費二七〇ドル七五セントの支給を受けた。」
原告訴訟代理人は、右抗弁に対し、「第一の事実を否認する。第二につき被告主張の金額の受領を認める。」と述べた。〔証拠関係略〕
理由
一 原告ら主張の日時、場所において古謝為一が自転車に乗つて被告車と衝突し、同人がそのため死亡したことは当事者間に争いがない。
二 そこで被告の過失につき検討するに、〔証拠略〕によると、本件衝突事故のあつた道路は、嘉手納村字嘉手納在比謝橋隣から東へ走る米軍専用のアスフアルト舗装道路で、附近には人家がなく雑木が密生し、車両の交通は閑散であること、衝突地点は見通しの悪いカーブで被告車から約一〇度の下り坂になつていること、同道路の幅員は五・一メートルであるが本件事故当時は両側に生い茂つたギンネムの為有効幅員は五メートル足らずで見通しはそのため更に悪くなつていたこと、被告は約二〇マイルの速度で進行し、カーブに差しかかる前に警音器を二回吹鳴したこと、被告車の車幅は約二・四メートルで被告が右カーブで反対方向から自転車に乗つて進行してきた被害者を発見した際、被告車の位置は、車体が道路右端から一・九メートル、左端から〇・七メートルの地点にあつたこと、被害者の発見後ハンドルを右に切り急停車の措置を講じたが間に合わず、被告車の荷台の左角に衝突させたこと、衝突した際も被告車は道路中央より左の部分へはみ出していたこと、被告車のスリツプ痕は、右側が一〇・八五メートル、左側が九・七メートル(いずれも前後輪のいずれによる印象か不明)であつたこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する被告本人尋問の結果は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
これらの事実から考えると、本件衝突事故は、被告車が見通しの悪いカーブを時速二〇マイルで道路の中央から左側にはみ出して運行していたため、反対方向から進行して来た自転車を発見し急ブレーキをかけ、ハンドルを右に切つたが間に合わず衝突するに至つたもので、被告知花には本件見通しの悪いカーブにおける徐行義務と通行区分遵守の義務とを怠つた過失があるというべきである。
従つて被告には本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
三 被告は、本件被害者訴外古謝為一にも、右見通しの悪いカーブを自転車で進行するに際し、徐行、停止義務を怠つた過失があると主張するが、前認定のとおり被告が二回警音器を吹鳴したから被害者が本件カーブを進行する際対向車両のあること知り得たことが推認できるけれども、前認定のとおり本件衝突事故は道路中央から七五センチメートルも被告車がはみ出して約二〇マイルの速度で進行していたことが原因であり、特に被害者が徐行せずに道路の中央寄りに自転車を進行させたことを認めるに足りる証拠はなく、又、見通しのきかないカーブに対向車両があることを知つただけで自転車を道路端に停車すべき義務があるということはできないというべきであつて、右為一の過失を認めることはできない。
四 そこで原告ら主張の損害について判断する。
(一) 亡為一の逸失利益一一、一〇四ドル(三、三八六、七二〇円)
〔証拠略〕によると、亡為一は昭和二四年一月二三日生れで中学卒業後就職し、一九六六年九月二九日に米軍に雇傭され沖繩知花弾薬所に勤務し、約一年後に本件事故に遭い、当時一八才で時給三四・五セントを得(原告主張の一日三ドル六一セントは誤りか)、一月一九二時間の勤務で平均六六ドル二四セント、更に年間三〇割のボーナスが支給されていたこと、原告ら両名が亡為一の両親であることが認められる。右認定に反する〔証拠略〕は信用できない。
そこで亡為一は本件事故がなければ少くとも一八才から六〇才までの四二年間に亘り(昭和四四年厚生省発表第一二回生命表による。)、年収九九三ドル六〇セント程度をあげ得るものと予測され、その間の生活費は右収入の五割程度と認めるのが相当であるからこれを控除し、毎年の純利益を五〇〇ドルとしてホフマン式計算法により、更に年五分の中間利息を控除するとその間の逸失利益は、一一、一四六ドル五三セントと算定されるが、原告らは右逸失利益として、一一、一〇四ドルを請求しているのでその限度において認める。
そして原告らは右為一の両親であつていずれもその二分の一宛の五、五五二ドル各損害賠償請求権を相続したものというべきである。
(二) 葬式費用二一六ドル四〇セント(六六、〇〇二円)
〔証拠略〕によると、訴外亡為一の葬儀関係費用を四七八ドル一五セント出費したことが認められ、右金額は相当と認められるところ、原告キヨ子が米国陸軍省から葬祭費として二七〇ドル七五セントの支給を受けたことは原告らの自認するところであるから、右金額を控除した残額二一六ドル四〇セントが損失額である。
(三) 慰藉料 原告為正、同キヨ子の慰藉料各九〇〇ドル(二七四、五〇〇円)
原告らが三名の子供のうち長男の死亡により精神的苦痛を受けたことが認められ、その主張の各一、〇〇〇ドルを相当とするが、被告から見舞金として二〇〇ドルを受領したことは原告らの自認するところであるから、これを平分して原告らの右金額から控除し、慰藉料として各自九〇〇ドルを相当と認める。
五 そうすると、原告らの請求は、被告に対し原告為正が右合計金額六、六六八ドル四〇セント中労災補償により給付を受けた三、六四〇ドル八セントを控除して三、〇二八ドル三二セント(九一三、六三七円六〇銭)原告キヨ子が六、四五二ドル(一、九六七、八六〇円)および右各金員に対する訴状送達の翌日である一九七〇年六月二〇日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当として棄却し、訴訟費用は民事訴訟法九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 土間敏男)